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「今年の漢字」が発表されました。今年は「戦」の一文字。アメリカ同時多発テロが起こった2001年に続いて2回目だそうです。2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は未だ終わりが見えず、7月には安倍元首相が銃弾に倒れる事件もあり、いつもの日常が足元から揺るがされるような不安を感じている人が多いのではないかと思いました。
患者様とお会いしていると、常に緊張感を伴う環境で育ってきた人や、戦場に行くような気持ちで学校に通っていた人、今も家庭や職場に安心できる居場所がないと感じている人など、日々の生活そのものが「戦」のように殺伐としている人たちの多いことを実感します。
さて先日、過去に短い間でしたが講義を聴講した先生の訃報に接しました。先生は、人の言動の奥にある悲しみや怒り、虚しさや孤独感、悔しさや不信感といった感情を、その人が育った環境や人との関係とつなぎ合わせてどこまでも深く温かく理解しようとされ、人の尊厳を軽んじるような態度が見られた受講者に厳しくも愛情をもって考えさせる姿も印象的でした。そして何より、同じ部屋の決まった席にいつも変わらぬ佇まいで居る先生との1時間は、私にとって安心感の中で考えや気持ちが自由になる時間でした。
今でも迷った時には、研修室の先生の姿や言葉を思い出します。先生の訃報に接し、大きくどっしりとした文字が並ぶ先生直筆のレジュメを改めて読み返しながら、自分の姿勢をもう一度省みるようにという先生の声が聞こえてくるような気がしました。
先生のご冥福をお祈りするとともに、来年も、「戦」のような日々を過ごしている方々が、つかの間でも安全な時間や空間の中で心の内を安心して自由に見つめられるよう、いつもの面接室でお待ちしたいと思います。
臨床心理士・公認心理師 石澤 桂子