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「まず素手で考えてみる」
これは私が物事を考える時に意識していることです。書籍にありますので引用してみます。
「私はよく学生に『まず素手で答えなさい』と言います。(中略)その『答え』がどんな貧しいものでも気にすることはありません。(中略)そうして誰の力も借りずに出てきたものは、あなたの中に確かに存在しているものなのです。(中略)それがあなたのスタートラインです。自分の思考や知識の輪郭を明確にさせることによって、こんどは他者からはっきり学ぶことができるのです」(菅野純著 教師のためのカウンセリングゼミナールより)。
もちろん今の時代に外の情報を参照しないなどということはあり得ませんし、その情報が知識となって考える助けにもなります。ですがそういう時代だからこそ、まずは自分の頭で考え、心に問いかけることを意識したいと思っています。そうはいっても簡単なことではありません。自分の内側にある経験や知識を掘り下げていくのですからかなりのエネルギーがいるものです。
相談に来られる人たちも、生きづらさや困りごとを抱えてあれこれ思い悩んできた、つまり自分自身について「素手で考え」続けてきた人たちだと思います。心の中には何らかの思いが確かにあるけれど、その輪郭がまだ明確になっていないのではないかと。そうだとすると、これまで独りでされてきた「素手で考える」作業を、これからは二人で一緒に続けていくのがカウンセリングのひとつの役割ではないかと考えます。
しかし、先ほども述べたようにそれは簡単なことではありません。その人にとって苦しい経験をさらに見つめるのですから痛みを伴うのは当然ですし、痛みに耐え続けるのはのはどんなに苦しいことだろうと感じます。逃れる方法をすぐに知りたいと思うのも自然な気持ちだと思います。最初のうちは特に解決のための助言を求められることが多いのですが、その痛みを理解できないままやっきになってしまって言葉が上滑りするどころか刃となってしまい反省することもあります。
その人の心の内にあるぼんやりしたものをよく聴き、なかなか答えの出ない問いを一緒に繰り返し考えていると、相談者のほうからふと「これまでは症状を何とかしたいと思ってきたけど、(症状は)私にとって何なのかを知りたい」などとおっしゃり、はっとさせられる時があります。二人で一緒に「素手で考え続けた」長い時間の先に、新たな景色が動き始めているんだなと感じる瞬間です。
臨床心理士・公認心理師 石澤 桂子