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「“できない”ってなんで言えないんだろう?」
これは“ある人が心の奥底に抱いてきた問いをみんなで考えてみよう”というテレビ番組*で取り上げられた「問い」です。※以下、番組内で紹介された参加者の方々の発言を引用しています。
この問いを立てた方には高次脳機能障害による軽度の記憶障害があります。「運転やコミュニケーションができるから、仕事ができると思われて任される。期待に応えたいけど、やったらできない。『忘れることはみんなあるよ』と言われてしまう。できないって言ったら、『甘えてる』、『向上心がない』って言われる。できないと言ったらだめと自分でもわかってるから、答えを探し続けてる」と言います。
番組に集まった方々からも、様々な声が聞かれました。
「できること、できないこと、が自分の中でもわかりにくい」
「これ以上やったらしんどくなる、でもやらないと人に迷惑がかかる、そのせめぎ合い」
「できないと諦めてしまうと、ほんとにできないの?ってもう一人の自分、葛藤があって」
「最低限ここまではできないといけない、という価値観がある」
「やってみないとわからない、を許してもらえない」
「できるかできないかで悩んで傷つき続けたから、一歩手前でラインを引くしかない」
「当事者本人がどうにかしなきゃいけない、となる」
「(できないと)言えなかった。仕事を続けたかったから」
こうした声は、同じように“見えにくく、周囲に理解されにくい症状や苦しさ”を抱えて精神科を受診される方々からもよく聞かれます。
この問いについて、以前のブログ**でも紹介した“弱いロボット”の開発者である岡田美智男さんが次のように話していました。「能力はたぶん周りとの関係性の中で作られるもので、分かち持たれている。(中略)できません、できます、ってなんか極端ですよね。でも、できる・できないの境界線は微妙なもの。それを自分が決めるんじゃなくて、相手にわかってもらいながら、少しずつ一緒になって作っていくプロセスがお互い納得感を生む」と。さらに岡田さんはこうも言います。「“してくれる人”と“してもらう人”という非対称の関係ではなかなかうまくいかない。(中略)自然に自分をさらけ出すことができると、周りとうまく関係が作りやすいんじゃないかな」と。

面接ではその方の生活や仕事、学校生活、日々の行動、人との関係などをうかがいながら、その中で何を感じ、どんな思いを抱えているかを想像するように努めています。病気や障害については知っていても、その方が抱えている生活や苦しみの本当のところは聞いてみなければわからないことばかりだからです。とはいえ、慣れない相手に自分のことを話すのは簡単ではないと思います。ご自身の中でもまだ曖昧な部分が多いのも確かでしょうし、心の中に入り込まれる、また葛藤が意識されるような怖さを感じるのも自然です。相談をする側と受ける側という非対称な関係になりやすいのも仕方のないことです。それでも、お互いが知っていることを少しずつ出し合っていくうちに、関係が対称に近づいていき、見えなかったことが見えてくる瞬間があるとも感じています。
番組に参加した方の一人が最後にこんなことを話していました。「能力をその人に宿る固有の固定的なものと捉えすぎているんじゃないか。何がそれを可能にしてるんだろう、どういう環境がそれをできなくさせているんだろう、そういう視点の変換は必要かな」と。私たちも、「問い」を持ってこられた方々と対話を続けながら、“できる”・“できない”の“あいだ”を一緒に作っていけたらと思います。そして、そこで見えてきたことを周囲の人たちにも分かち合ってもらえたらと願っています。
*引用資料:NHK toi-toi “できない”ってなんで言えないんだろう?
**参考ブログ:持ちつ持たれつ(2025年2月掲載)
ひとやすみこころのクリニック姪浜院
福岡市西区内浜1-1-5
臨床心理士・公認心理師 石澤 桂子